2022年6月 今月の心のビタミン

十数年前に天に召された山田彰という牧師さんをご紹介します。山田さんは長く栃木県塩谷町で牧師をしながら、作新学院のチャプレンも務めていました。

戦後まもなく、映画が庶民のレジャーの花形だったころ、山田さんはニューフェイスとして東宝映画に入社し、23才の時に「お父さんはお人好し」という映画で主役に抜擢されました。東大出のサラリーマンの初任給が1万5千円という時代に、山田さんは35万円の月給を手にし、世の中は自分を中心に回っていると錯覚し、毎晩のように飲み歩き、豪遊三昧の日々を過ごし、二日酔いで撮影現場に現れるようになりました。先輩たちの忠告にも耳を貸さず、加山雄三さん主演の「若大将シリーズ」のキャプテン役を最後に、3年足らずでスターの座から転げ落ちてしまいました。

そんな山田さんの逃避先はギャンブルでした。麻雀、競輪、競馬。勝負事はめっぽう強かったのですが、勝っては酒、負けても酒で、繁華街で喧嘩をして警察に連行されたことも度々でした。

すっかり落ちぶれて、妻子にも見限られた山田さんを心配して、兄たちが新宿にレストランを持たせてくれましたが、店が流行りだすと、再びギャンブルに手を出すようになりました。たまりかねたコックさんたちが店を辞めたいというのを引き留め、今度こそ心を入れ替えて働こうと決心したのですが、わずか一ヶ月半後、気がつくと京王閣競輪場の雑踏の中にいました。情けない自分に絶望した山田さんは、死ぬことばかり考えながら乗った帰りの電車の中で夢を見て、クリスチャンである父から「金や名声はむなしいものだ。教会へ行きなさい。」と言われたことを思い出しました。

「教会へ行ってみよう」、背広のポケットから出てきた最後の10円玉で公衆電話から番号案内に電話をかけ、教えられたのが新宿駅から歩いて行ける淀橋キリスト教会でした。その教会で山田さんは、自分に残されているのはキリストを信じて生きる道しかないことを知りました。

「すべて疲れた人、重荷を負っている人はわたしのもとに来なさい。わたしがあなたがたを休ませてあげます。」(新約聖書のことば)と、優しい愛の手を差し伸べてくださった神の前に、涙を流して自分の罪を告白した時に得た心の安らぎは、生涯忘れられないものだったと、山田さんは語っています。

山田さんはその後、1971年に神学校に入学し、1980年から牧師として働き、天に召されるまで、神の愛を語り続けました。

挫折や失敗は、人生の終わりではありません。人生のどん底にいると感じる時にも、神の救いの御手があなたに伸ばされていることを知っていただけたらと願っています。

聖書のことば  私たちが自分の罪を告白するなら、神は真実で正しい方ですから、その罪を赦し、私たちをすべての不義からきよめてくださいます。(新約聖書・ヨハネの手紙第一1章9節)